#2 初舞台(マンハント)

2 行動派ミステリィの顔(*1)

3 世にヌスビトとミステリ(*2)は尽きまじ

浜の真砂(まさご)は尽きるとも

解説屋のまえがき

 

 本論にはいる前にまず《マンハント》が四年目を迎え劃期的な(*3)大型版になったことを読者のみなさんととともに喜びましょう。創刊以来の読者の一人として、本誌が今後発展することを期待したいものです。

 さてペイパー・バック(*4)の本のお話も今回が三回め。横文字には縁がないなどといわずに、せいぜいおつきあいください。

 部屋中に積み重ねられ散乱している千冊近いペイパー・バックの山にうずもれながら、この暑いさなかに原稿を書くのもラクじゃありません。

「浜の真砂は尽きるとも……」なんて石川五右衛門じゃないけれど、尽きることをしらないペイパー・バックのタイトルを分類してみようなんて思いたったのが運のつき。

 パロディー専門の漫画雑誌"MAD"の6月号(*5)にペイパー・パック本のタイトルをからかったペイジが掲載されていました。それによりますと、ペイパー・バック本は一秒間になんと4,378冊もでてるっていう話です。弱い頭をしぼってせっせと計算すると年間約1,380億冊。一冊が100万部印刷されるとしてもざっと14万種。

 小出版社からゴールド・メダルやポケットのような大出版社まで大小あわせて千社に近い出版社があるということですが、どうもこの数字は1953年あたりの正確なデータ(総数約2.6億、1000余種)と比べてケタちがいの数字なので、アテにはなりません。

 相手が"MAD"であるだけにマユツバものなんですが、ひょっとしたらほんとうかもしれないと考えさせるところが、〈マッド〉の〈マッド〉たるゆえんなんでしょうか。

 数字の話はそえもの程度にして、あとは横道にそれながら面白そうなタイトルをご紹介することにいたします。

 

第1表 調査対象の出版社別冊数

GOLD MEDAL 75
 AVON 75
POCKET 75
SIGNET 75
DELL 50
BANTAM 25
OTHERS 25
合計 400

 

言葉も色もいろいろ

 

 8月号の講座で、タイトルは強烈・簡潔・暗示的でなければならないと書きました。

 ペイパー・バックのタイトルにはこの三大要素が共通して一般的にみられますが、何千というタイトルをシムプル(*6)にその単語の数で分類してみましょう。

 今回のデータは第1表のとおり、各ペイパー・バック本出版社から400冊を選んで対象としました。

 タイトル(題名)に使われる単語の数は、第2表にみられるように三語が最も多く、(37.0%)、以下四語(26.2%)二語(16.7%)と続いています。

 

第2表 タイトルの単語数

1語 14
2語 

 67(14)

3語 148(65)
4語 105(28)
5語 43(18)
6語以上 23(15)
合計 400(140)

(注)カッコ内の数字は The またはAが最初にあるものです。従って単語数には The, Aを含んでいます。

 

 品詞別では形容詞(冠詞)+名詞、名詞+前置詞+名詞の型が圧倒的に多くみられ、動詞ではじまる一つの文章になった命令形が目だちます。

 強く視覚に訴えかけるには何色がいいか、これにはカバー・ピクチュアの配色も大いに関係してきますが、とにかく単色で白ヌキが最も良いことを第3・4表は示しています。(編注・原本では第4表と第5表が入れ替わっています)

 

 第3表 タイトル文字の配色

単色 347(347)
2色 30(60)
3色 14(42)
4色以上 9(36)
合計(総計)  400(485)

第4表 タイトル文字の色彩

206(42.5%)

96(19.8%)
78(16.1%)

76(15.7%)

16(3.2%)
11(2.3%)
2(0.4%)
合計

485(100.0%)

(注)似通った色は上記7色のいずれかに分類してあります。


 

 東京の街のネオンのようにハデに色をつかわず、字は読ませるものなのですから、一色でくっきり浮かびあがる、白くぬいたものが適当なのでしょう。

 赤と黒よりも黄色が多いのは別にお日様が黄色くみえるのとは関係ないので、暗いバックには白色とともに黄色が強いコントラストの効果をあげるからです。次に内容別に面白そうなタイトルをならべてみましょう。

 

赤いバラと拳銃

 

 ものの本によりますと、Gunには陰語で男性のシンボルの意味があるそうです。

 〽︎こいつは、ライフル

  こっちはガン

  こいつは射つため

  こっちはお楽しみのため

 これは米陸軍の古い唄で、新兵にライフルと拳銃の使い方の区別を教えるための唄だとか。

 とすると、ミッキィ(*7)・スピレインの『俺の拳銃は素早い(*8)(My Gun is Quick)(編注・正しい表記はMy Gun Is Quick)』なんてのは、意味深長なことになりますね。

 Give a man a Gun(J・クリージィ)(*9)があり、Give the Girl a Gun(R・デミング)があって米英両陣営互角。

 グレアム・グリーンの The Gun for Hire(*10)(編注・正しいタイトルはThis Gun for Hire)はペイパー・バック本のタイトルにいくつもの類似題名を与えるヒントになっています。

 I'm Cannon for Hire(*11)(編注・正しいタイトルはI'm Cannon-for Hire。「-」はハイフンではなく短いダッシュだろうと思われる)おなじみカート・キャノンの長篇。キャノンは、ふつう大砲という意味ですが、ひろく拳銃を意味することもあります。チャンドラーも拳銃の意味でキャノンを使っています。

 2 Guns for Hire(写真版参照)(N・マクネイル)(*12)

 This Girl for Hire(*13), A Gun for Honey(*14)(いずれもG・G・フィツクリング(*15)のお姐ちゃん探偵ハニィ(*16)・ウェストもの)

 Wyoming Jones for Hire(R・テルフェア)

 A Gun for Inspector West(J・クリージィ)

 This Gun for Gloria(バーナード・マラ)

 写真版の "2 Guns for Hire(雇われ二人組)"は、トニイ・コスティン、バート・マコールのコンビ私立探偵(*17)が活躍するものです。二人はコルト〝コマンダー〟とS&W・ミリタリ(*18)&ポリス38スペシャルを駆使して『死はえらぶ』『シーソの上の第三の男』『ホット・ダム』『死の乗車』などの難事件を解決して、目下人気のある私立探偵です。

 バート・マコールは21才まで警察官をつとめ大戦ちゅうはOSSの諜報員だった男で、いつも風笛(*19)をくわえています。

 O.S.S(Office of Strategic Serrice)が、(*20)大戦ちゅうおもに抗日諜報謀略のために中国に本拠をおき活動した秘密機関だったことは、戦後もいろいろ話題になりました。

 O.S.Sの解体後、スパイものといえば対ソ諜報謀略秘密機関C.I.A にきまってしまったようです。

『雇われジョーンズ』は、リチャード・テルフェアのウェスタン・シリーズの一篇でこの作家はミステリィではD.C.I(Dept. of Counter Intelligence)のヨーロッパ特派員モンティ・ナッシュのシリーズを書き、器用な両刀使いの腕前を示しています。

 ごひいきシェル・スコットの登場する作品にも、ガンのつくタイトルがひとつあります。『誰もが拳銃を持っている』(Every Body Had a Gun)(*21)という作品ですが、その冒頭のシーンをご紹介してみます。

「おかしな話さ、アフリカの大草原で聞くトランペットはけものの吠え声に聞えるだろうし、ビルのてっぺんで大蛇のはう音は口笛ぐらいにしか思わない。

てなわけで、ロスの下町のまんなかでシェル・スコット様の耳もとを拳銃の弾丸がかすめていったのにすぐにはピンとこなかった。」

 プラザーの作品にはこのほか"Have Gun will Travel"(*22)(テレビでおなじみのパラディン氏の名刺にこう刷ってある)をもじった"Have Gut wil Travel"(*23)という面白いタイトルの短篇集があります。

 タイトルの話はこれくらいにして今回もピストルのある表紙をならべてみました(写真版参照)。拳銃はおなじみのばかりですが、アガサ・クリスティ(*24)となると、本誌とはトンと縁のないおばあちゃんですね。白地に浮き彫りにされた赤いバラと拳銃。ケリー・ルースの作品にもこれに似た構図ものがありますが、そのほうは黒地で銃口にバラの花があしらってあります。

 カバー・ピクチュアには拳銃が多いのに、タイトルに少ないのは、はじめにお話した陰語の意味のせいなのでしょうか。ますます『俺の拳銃は素早い』が気にかかります。

 話があまりオチないところで次にうつりましょう。ポピュラー・ソングでもお聞きになりながらどうぞ。


 

ポピュラー・ソングでいこう!

 

 昨今の週刊誌ほど流行語に敏感でまた流行語をつくりだす名人はないでしょう。

 よく注意してみるとほとんどがベストセラー小説や映画題名をもじってつけられています。それもムリはありません。小説や映画にはバク大な広告費がかかっているので、それをもじってつけたタイトルはわかりやすく受けやすいからです。

 ペイパー・バック本のタイトルにも同様な例が多いのですがそのなかからポピュラー・ソングをもじったもので、気がついたものだけピック・アップしてみました。

 本家の歌曲はいわずもがな、ひとつみなさんに当てていただきましょう。

Catch a Fallen Starlet(ダグラス・サンダースン)

Street of No Return(デヴィット・グディス)(*25)

The Wayward Widow(ビル・ゴールト)

It's a sin to Kill(デイ・キーン)(編注・正しくはIt's a Sin to Kill)

The Out is Death(ピーター・レイブ)(編注・正しくは The Out Is Death)

You Belong to Me(サム・ロス)

All Shot Up(*26)(チェスター・ハイムズ)

Bye Bye, Baby(J・H・ボンド)(編注・小鷹文庫ではBye-Bye, Baby!)

 "All Shot Up" (みなごろし)" は黒人街ハーレムを舞台に黒人コンビ棺桶エド・ジョンソン、墓穴ディッガー・ジョーンズ(*27)の第四作です。異色作家の異色編ということで出版社エイボン(*28)のドル箱になっていますがコンビ探偵が最近また目だってきたといえましょう。

 

数字にはヨワい……

 

 数字のはいったタイトルは、あるようでなかなかありません。一から三ぐらいまでは他にもいくつもあるのですが、一四までやっとならべてみたもののあとは虫くいでわかりません。

 1 One Lonely Night(*29)(ミッキイ・スピレイン)

 2 Two Deaths Must Die(リチャード・ヒンメル)

 3 Three Day Terror(編注・小鷹文庫ではThree-Day Terror)(ヴィン・パッカー)

 4 Fatal Four some(編注・小鷹文庫では The Fatal Foursome)(フランク・ケーン)(*30)

 5 Five Against the House(*31)(ジャック・フィニイ)

 6 Six Finger(編注・正しくはSix Fingers (複数形))(ハル・エルスン(短編))

 7 Seven Days Before Dying(ヘレン・ニールセン)(*32)

 8 The Eighth Circle(*33)(スタンリイ・エリン)

 9 Ninth Hour(編注・小鷹文庫では The Ninth Hour)(*34)(ベン・ベンスン)

 10 Ten and One Thousand(*35)(セイチョウ・マツモト)

 11 Ocean's Elevn(*36)(フランク・シナトラ)

 12 Twelve Chinks and a Woman(*37)(J・H・チェイス)

 13 Murder in Room 13(アルバート・コンロイ)

 14 The Blonde in Suite 14(スチュアート・スターリング)

 数字に関連してOnce, Twice, First, Second, Third……Double, Triple, などのはいったタイトルもあります。比較的作品の多いダブルからめぼしいのをひろってみます。

 真打ちはなんといってもJ・M・ケインの "Double Indemnity(倍額保験)"(*38)です。

 その他ではエドウィン・ランハムのブンヤシリーズ(ブルース・カーター)の一篇、"Double Jeopardy"(*39)"Double Shuffle(編注・小鷹文庫では The Double Shuffle)"(J・H・チェイス)、"Death on the Double"(へンリイ・ケイン)、"Trouble Comes Double"(ロバート・P・ハンセン)、同じくトラブルとダブルで韻を踏んでいるシェル・スコットとチェット・ドラム共演の"Double in Trouble"などがあります。

 ダブルぐらいじゃこのピンチは切りぬけられないとばかり、アダム・ナイトのスチーブ・コナカー=シリーズ(*40)にトリプル・スレイ(Triple Slay)なんてのもあります。

 

女は髪で勝負する

 

 カバー・ピクチュアの大半が美しきお女性のからだをあらゆるアングルからさし絵にしていますが、タイトルにもからだの部分が使われている例が多い。

 老いたる二枚スター(編注・二枚目スター?)は別として髪の毛もからだの一部ですがタイトルに登場するものはブルネット(黒髪)、レッドヘッド(赤毛)をおさえてブロンド(金髪)が圧倒的です。

『冷たいブロンド(A・ナイト)』

『ブロンドは若死する(ビル・ピータース)』(*41)

『ブロンド(カーター・ブラウン)』

『14号室のブロンド(S・スターリング)』

『悪いブロンド(ジャック・ウェッブ)』

『ブロンドの餌(S・マーロウ)』

 とても数えきれません。タイトルはブロンドが断然多いのですが、カバー・ピクチュアとなるとそうでもありません。

 

第5表 髪の毛の分類

BLONDE 198
BRUNETTE 98
BROWN 80
RED-HEAD 24
合計 400

(注)厳密に分類すればもっと細かくなるが、便宜上4つに大別した。

 

 ペイパー・バック本のカバー・ガールの髪の毛は、第5表でおわかりのようにブロンドが約50%、ブルネットが25%、茶(栗毛)が20%そのほか赤毛が残りということになっています。男がケモノなら女はバケモノ頭髪だけではキッスイのブロンドなのか染めたのかわかったものじゃありません。ブロンド、ブルネット、栗毛の三人娘をご紹介します(写真版参照)。色刷りでない(編注・原本ママ)のが残念ですが、適当にポーズなどからご判断くだい(編注・ください)。


 

色つきタイトル

 

 髪の毛がでたついでに、タイトルから各種の色彩あつめてみました。

 黒 Bride Wore Black(編注・小鷹文庫では The Bride Wore Black)(*42)(コーネル・ウールリッチ)

 赤 Red Harvest(*43)(ダッシェル(*44)・ハメット)

 緑 Green Light for Death(フランク・ケーン)

 桃 Ride the Pink Horse(ドロシイ・B・ヒューズ)

 青 The So Blue Marble(ドロシイ・B・ヒューズ)

 黄 Yellow Hearse(編注・Amazon.comでは The Yellow Hearse)(フロイド・マハナ)

 金 The Case of the Golddigger's Purse(*45)(E・S・ガードナー)

 銀 The Silver Tombstone Mystery(*46)(フランク・グルーパー)(*47)

 白 Murder in Black and White (ディヴィッド・アレグザンダー)(*48)

 エラリー・クイーンのオレンジも《マンハント》には不むきでしょうし、チェスタートンの茶色をひっぱりだしたんでは、フザケすぎているので、ハードボイルドでは残念ながらに十二色がそろいません。

 タイトルばかりで中味がないのもご退屈さまなので『死を告げる緑のライト』からジョニイ・リデル(*49)に登場してもらいます。

 悪徳に汚れた腐敗した小都会を浄化するお話が戦後の一時期に流行しました。これもそのひとつでフランク・ケーンの1949年の作品です。

 小さな街ヘジョニイ・リデルが出張するところから話がはじまります。依頼人のお女性はすでに謎の自殺をとげたあと。

 くされきった町で活動を開始する正義漢リデル。死んだ依頼人の慟いていたナイトクラブでは毎夜賭博が行なわれ、乗りこんだリデルはショウのさいちゅうにまぶしい緑色のスポットライトを当てられます。

 ちょっとした油断から殺人事件の罠にかけられ警察で痛めつけられたリデルは、危うく虎口(ここう)を脱し事件の背景をつかんでゆきます。

 クラブで赤いライトをあびた流れもののやくざが賭博でひんぱんに大金を稼ぎ、クサいとにらんだリデルはクラブを急襲して大量の偽札を発見。各種のスポット・ライトで客を区別しながら黒幕で仕事をあやつっていた意外な真犯人。正義派の警官と新聞記者。スピーディな展開と強烈な性格描写のうちにストーリィは終りに近づきます。この作品では小道具として各種のライトが重要な鍵になっています。チグハグなタイトルの多いなかで、これはズバリ謎の一端を読者に示すフェアなタイトルのつけ方であるといえましょう。

 

お女性は呼ばれたがる

 

 ブロンドとか赤毛というのも女性の呼び名のひとつですが、女性をその場その時で使いわける言葉は、どこの国にもたくさんあります。次に女性の名称タイトル集をやってみましょう。

Girl This Cirl for Hire(*50)(G・G・フィックリング)

Baby Cry Faby Killer(*51)(ジェイムズ・ヒルトン)(*52)

Doll Dead Dolls Don't Talk(デイ・キーン)

Moll Baby Moll(スチーブ・ブラッキーン)(*53)

Dame The Dame's the Game(アル・フレイ)

Sister Little Sister(*54)(R・チャンドラー)

Lady The Lady Kills(ブルノー・フィッシャー)(*55)

Woman  Branked Woman(*56)(ウェイド・ミラー)

Madame  Murder for Madame(アダム・ナイト)

Wife  Murder Takes a Wife(ジェイムズ・ハワード)

Virgin Murder and the Married Virgin(ブレット・ハリデイ)

Mistress The Mistress(*57)(カーター・ブラウン)

Angel Angel(ギル・ブルウー)(*58)

Brat The Brat(〃)

Bitch The Bitch(〃)

Tramp Backwoods Tramp(ハリイ・ウィッティントン)(59)

Darling The Dead Darling(ジョナサン・クレイグ)

Sweet heart Let Me Kill You, SWeet Heart!(*60)(フレッチャー・フローラ)

Honey Honey in the Flesh(*61)(G・G・フィックリング)

Lover The Lover(*62)(カーター・ブラウン)

Coquette Case of the Cold Coquette(編注・小鷹文庫では The Case of the Cold Coquette)(ジョナサン・クレイグ)

 時と場合によってこれらの呼び名を正しく使いわけるのは、たいへん難しいことですね。

 

解説屋のあとがき

 

 ミステリィである以上、犯罪臭のある単語がタイトルに多いのは当然ですが、くわしいお話はまた次の機会にゆずることにいたします。

 しかしなんといっても、タイトルに使用される単語の頻度の高いものはMurder, Death, Killの三つでしょう。今回対象にした400のなかにもこのいずれかが含まれるタイトルが90例(22.5%)もありました。殺人や殺しや死はつきものといえ、すこし芸のなさすぎるつけ方ではないでしょうか。

 同じハードボイルドの流れをくんでいるとはいえ、最近のタイトルには味もそっけもないものが多いようです。何千というタイトルを目の前にしても、チャンドラーの Farewell, My Lovely やW・R・バーネットのAsphalt Jungle(編注・小鷹文庫では The Asphalt Jungle)といったどこか品と風格のあるタイトルは見当たりません。

 以上、3回にわたってペイパー・バックの紹介につとめてきましたが、少しでもみなさんにわかっていただけたかどうか。

 私は解説屋に過ぎません(ダカラ、みすハイケマセン。ハイよくわかっています)

 ミステリィに批評家がなり立つとも思いません。バウチャーも乱歩も偉大な解説家でしょう。しかし謎解きの段階を超えてミステリィが大衆と社会にますます密接なつながりを持つマスコミにふくれあがった今日、正しい判断をくだす解説家が必要になってきました。そのときこそ解説屋が批評家になりうるときなのではないでしょうか。

 

*出典 『マンハント』1961年10月号

 

 

[校訂]

*1:原本では「行動派ミステリィの“顔”談義③」[このタイトルは前回とは少し異なる]

*2:ミステリ → ミステリィ

*3:劃期的な → 画期的な

*4:ペイパー・バック → ペイパーバック

*5:6月号 → 1961年6月号

*6:シムプル → シンプル

*7:ミッキィ(ミッキー)・スピレイン

*8:俺の拳銃は素早い → 俺の拳銃はすばやい

*9:J・クリージィ(クリーシー)

*10:The Gun for Hire → This Gun for Hire『拳銃売ります』(映画化名は《拳銃貸します》)

*11:I’m Cannon for Hire → 『よみがえる拳銃』

*12:N・マクネイル(マクニール)

*13:This Girl for Hire → 『ハニー貸します』

*14:A Gun for Honey → 『ハニーよ銃をとれ』

*15:G・G・フィツクリング(フィックリング)

*16:ハニィ(ハニー)・ウェスト

*17:コンビ私立探偵→ 私立探偵コンビ [このほうが一般的かも?]

*18:S & W・ミリタリ&ポリス → S&Wミリタリー&ポリス

*19:風笛 → [不明? 号笛?]

*20: Serrice)大戦 → Service)が大戦

*21:Every Body Had a Gun → Everybody Had a Gun

*22:”Have Gun will Travel”(テレビでおなじみのパラディン氏の → “Have Gun – Will Travel”(テレビでおなじみの《西部の男パラディン》氏の [原題は「拳銃所有、出張可能」という意味だが、邦題は《西部の男パラディン》]

*23:”Have Gut wil Travel” → “Have Gat – Will Travel” [gat は gun(拳銃)のスラング]

*24:アガサ・クリスティ(クリスティー)

*25:デヴィット(デイヴィッド)・グディス

*26:All Shot Up → 『黒の殺人鬼』[エルヴィス・プレスリーの All  Shook Up 「恋にしびれて」のもじり]

*27:墓穴ディッガー・ジョーンズ → 墓掘りジョーンズ

*28:エイボン → エイヴォン

*29:One Lonely Night → 『寂しい夜の出来事』

*30:フランク・ケーン(ケイン)

*31:Five Against the House → 『五人対賭博場』

*32:ヘレン・ニールセン → 「ニールスン」のカタカナ表記もあり

*33:The Eighth Circle → 『第八の地獄』

*34:Ninth Hour → 『九時間目』から文庫版で『脱獄九時間目』に改題

*35:Ten and One Thousand → 松本清張にこういうタイトルの作品はないので、たぶん『点と線』の“誤訳”だろう。

*36:Ocean’s Elevn →Ocean’s Eleven『オーシャンと十一人の仲間』はフランク・シナトラ主演の映画タイトルで、シナトラは脚本者でも監督でもない。

*37:Twelve Chinks and a Woman →[原題には差別語がはいっているので、1950年刊の改訂版では Twelve Chinamen and a Woman に改題したが、それでも差別的なので、1970年版では The Doll’s Bad News に再改題]

*38:倍額保険 → 殺人保険

*39:一篇、”Double Jeopardy” “Double Shufflle” → 一篇 ”Double Jeopardy” 、“Double Shufflle”

*40:スチーブ・コナカー=シリーズ → スティーヴ・コナカー・シリーズ

*41a:ブロンドは若死する → 金髪女は若死する

*41b:ビル・ピータース(ピーターズ)

*42:Bride Wore Black → 『黒衣の花嫁』

*43:Red Harvest → 『赤い収穫』

*44:ダッシェル(ダシール)・ハメット

*45:The Case of the Golddigger’s Purse → 『黒い金魚』

*46:The Silver Tombstone Mystery → 『ゴースト・タウンの謎』

*47:フランク・グルーパー(グルーバー)

*48:ディヴィッド(デイヴィッド)・アレグザンダー(アリグザンダー)

*49:ジョニイ(ジョニー)・リデル

*50:This Cirl for Hire → This Girl for Hire『ハニー貸します』

*51:Cry Faby Killer → Cry Baby Killer

*52:ジェイムズ・ヒルトン → ジョーゼフ・ヒルトン

*53:スチーブ(スティーヴ)・ブラッキーン

*54:Little Sister → The Little Sister『かわいい女』

*55:ブルノー(ブルーノ)・フィッシャー[《マンハント》の表記は「ブルーノ」だが、小鷹さんの表記は「ブルノー」のときもある。]

*56:Branked Woman → Branded Woman

*57:The Mistress → 『ミストレス』

*58:ギル・ブルウー(ブルワー)

*59:ハリイ(ハリー)・ウィッティントン(ホイッティントン)

*60:Sweet heart  Let Me Kill You SWeet Heart! → Sweetheart   Let Me Kill You, Sweetheart! 

*61:Honey in the Flesh → 『ハニーと連続殺人』

*62:The Lover → 『恋人』

 

 

▶︎4 私立探偵もラクじゃない

 

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